月下の誓約
唇が触れ合いそうになった瞬間、和成は身を引いた。
佐矢子から手を離し、項垂れてつぶやく。
「……できません」
佐矢子がゆっくりと目を開いた。
和成は項垂れたまま佐矢子に譲歩を促す。
「でも、紗也様にご迷惑をおかけするわけにもまいりません。何か別の事ではダメですか?」
佐矢子は相変わらず冷たい表情で和成を見据えた。
「では、結婚してください」
顔を上げた和成は悲しげな笑みを浮かべて佐矢子を見つめる。
「それは不幸にしかなれませんよ。あなたは自分に触れることのない夫と一生添い遂げるつもりなんですか?」