月下の誓約


 驚いて一歩退いた和成に、佐矢子はイタズラっぽい笑顔を向ける。


「それで勘弁してあげます。私は紗也様の事確信してるのに、和成様ったら、しらを切るんですもの。少し意地悪したくなっただけです。困らせてごめんなさい」


 佐矢子の勘は確かに鋭い。
 けれど和成は、それを決して認める訳にはいかないのだ。


「しらを切ってるんじゃなくて、本当に違うんです」


 和成が駄目押しすると、佐矢子はにっこり笑って大人の対応をした。


「じゃあ、そういう事にしておきます」
「信じてないんですね」


 大きくため息をつく和成に、佐矢子は軽く頭を下げる。


「今日は一日つき合っていただいてありがとうございました。私はこれで失礼します」

「あの……」


 立ち去ろうとする佐矢子を和成は呼び止めた。

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