月下の誓約


「彼女は私がしらを切っていると思い込んでます」

「元々言いふらすつもりはないんだろう。どうせ根拠はないんだ。しらを切り通せ。ところでおまえ、頬に付いた赤いものは返り血には見えないが?」


 塔矢がおもしろそうに笑って指摘する。


「あっ!」


 和成は佐矢子が口づけた頬をあわてて手で押さえた。


「鏡ないですか?!」
「この面子でそんなものを持ち歩いている奴がいると思うか?」
「もう! 先に言って下さいよ。人が悪いな」


 鏡は諦めて手の平でごしごし頬をこする。

 塔矢がその様子を見てクスクス笑っていると、作業を終えた隊員が報告した。


「作業終了しました」
「よし。引き上げる」


 間者の亡骸と捕虜を乗せた幌付きの荷車を引いて、塔矢隊の面々は城へと引き上げた。

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