月下の誓約
「私、それ持ってない」
塔矢は皆に一斉送信を行い、電話を懐にしまう。そして紗也に笑顔を向けた。
「後ほど和成に届けさせます」
電話の設定を終えた部隊長たちは、次々に会議室を出て行った。
明日は早朝から北方砦へ向けて出立する。
部隊長たちは早く家に帰って明日に備えなければならない。
紗也も彼らに混ざって会議室を出て行った。
紗也の護衛官に就任して以来、城内に居室を与えられている和成は早く帰る必要もない。残って会議室の後片付けをしていた。
そこへ塔矢が歩み寄り、目の前に無線電話を差し出した。
和成は怪訝な表情で電話を見つめ、塔矢に視線を移す。
「どうしてさっき渡さなかったのですか?」
「それをお渡しして、ついでに戦の最中はおまえに従うように、よーくお願い申し上げろ」
塔矢はイタズラっぽく笑って和成の肩を叩いた。