月下の誓約
君主の居室は城の最奥にある。
居室の周りはぐるりと生け垣に囲まれている。
その周りを更に堀が囲んでいた。
居室に行くには堀にかかった唯一の渡り廊下を通るしかない。
城内はいくつかの区画に分けられ、各区画ごとに安全管理基準が設けられている。
当然ながら君主居室は特級区画だ。
渡り廊下には門があり、昼間は開いているが、認証札を持つ限られた者しか通過できない。
夜にはその門も閉じられ、更に限られた者にしかこれを解錠できない。
護衛官である和成の居室は、この渡り廊下の手前にあった。
会議室の片付けを終えた和成は、塔矢と別れて中庭に面した廊下を君主居室に向かって進む。
廊下には所々に柱が立っているだけで壁がない。
そのため中庭や、少し見上げれば空がよく見えた。
すでに日は落ち、辺りは暗くなっている。
和成は外を眺めながら、廊下の端をゆっくりと進む。
中天にかかる明るい月が、中庭の木々の葉を銀緑色に染めていた。
明日は満月だ。
和成は立ち止まり、白く眩しい月を見上げて目を細めた。