月下の誓約


 渡された湯呑みの中を紗也は不思議そうに眺める。
 薄黄色の液体の中に黒くて四角い板状のものが沈んでいた。


「なんなの? これ」

「昆布茶です」

「昆布って、海藻の? お茶になるの?」

「よく御存知ですね。杉森は海がないから珍しいでしょう。私も母から貰ったものなんですけどね。あたたかいうちにお召し上がり下さい」


 紗也が恐る恐る口にする。


「あ、なんかしょっぱい。不思議な味」

「海の味だそうですよ」

「海ってしょっぱいの? 和成は海を見たことある?」

「ありません。私が生まれた時には、すでに戦乱の世の中でしたから」

「そっか。よその国の向こうだもんね、海があるの。早く平和になって海に行けたらいいな」

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