月下の誓約
佐矢子に連れられて行った雑貨や小物の店なら、紗也の気に入るものがあるかもしれない。
塔矢への土産も何かあるだろう。
和成の頭の中で行き先が決定した時、紗也が和成を見上げて問いかけた。
「ねぇねぇ、どんな設定にする?」
「設定って何ですか?」
「だって、お忍びだから君主と護衛じゃマズイでしょ?」
「えー? じゃあ、お屋敷のお嬢さんと従者でいいじゃないですか」
和成が面倒くさそうに言うと、紗也は不満げな声をあげた。
「そんなの、つまんない。佐矢子さんとは恋人同士だったのに私はダメなの?」
どうやら噂の事を紗也に追及されて、塔矢が事情を説明したのだろう。
真相を知っているのは塔矢だけだ。
和成はため息と共に、やんわり拒絶する。
「敵の目を欺くためですよ。結局欺けなかったので恋人同士は勘弁してください」
まねごととはいえ紗也と恋人同士だなど、自分の想いを押さえ込んでおける自信が和成にはなかった。
佐矢子の髪の香りが紗也と同じだっただけで、激しく動揺したのだ。