月下の誓約


 自分の腕の中に愛しい紗也を抱きしめていることに、和成は今更ながら気が付いたのだ。

 紗也を危険の中に行かせて、そのまま会えなくなったらと思うと堪らなくなって、さらに強く抱きしめると絞り出すようにつぶやく。


「……俺は、あなたを失いたくない……」


 和成の異変に気付いたのか、紗也がピタリと抵抗をやめた。

 至福の時を噛みしめるように、そのまま紗也を抱きしめる。
 すると心の奥底から真っ黒な感情がわき上がってきた。


――――コ・ワ・シ・テ・シ・マ・エ――――


 それに気付かぬフリをして、愛おしげに髪に頬を寄せた時、紗也が掠れた声でつぶやいた。


「……わかったから……どこにも行かないから……離して」


 その声で和成は、一気に現実へ引き戻された。

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