月下の誓約


 弾かれたように紗也から離れると、三歩下がって床に額を付け平伏する。


「申し訳ございません! とんだ御無礼をつかまつりました!」


 紗也の返事はない。

 恐る恐る顔を上げると、紗也は先程と同じ体勢で背中を向けたまま立ち尽くしていた。
 こちらからでは、その表情を伺い知ることはできない。

 怒るでも、泣くでもなく、何の反応も返さない紗也にいたたまれなくなった。

 和成は立ち上がり「失礼します」と一言言い残して、紗也の顔を見ないようにしながら、その横をすり抜け執務室から駆け出した。

 部屋から出た途端、駆けつけて来た塔矢とぶつかりそうになる。


「和成! どこへ行く?! 何があったんだ?!」


 わめく塔矢の声を背に、和成はそのまま自室へ向かって走り去った。

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