月下の誓約
塔矢は嘆息すると、静かに問う。
「では、どうしたいんだ」
「紗也様の護衛を解任して下さい」
「それこそ無理だ。状況を見極めて何が上策かよく考えろ。私情だけで決断を下すな。策を練るのは得意だろう」
和成は眉を寄せ、片手で顔を覆った。
「そんな、戦略と同じようにはいきませんよ。私は紗也様のお側を離れるべきなんです。でないと、いつかあの方を傷つけてしまいそうで怖いんです」
塔矢が静かに尋ねる。
「おまえは、想いを捨てるんじゃなかったのか?」
「今のまま、お側にお仕えしたままで、捨てることなどできません」
和成がそう言うと、塔矢は和成の頭をクシャリとひと撫でし、黙って部屋を出て行った。
予想外の塔矢の行動に呆気にとられて、和成はしばらく塔矢の去った方向を見つめる。
(もしかして、見離された?)
和成は机の上に突っ伏して頭をかかえた。
何ひとつ考えることができなくなって思考が停止する。
そして、そのまま意識が薄れ、やがて眠りに落ちていった。