月下の誓約
今まで通り、なかった事にしてしまう。
自分にとって一番辛い選択が一番の上策とは。
和成は灯りのない暗い部屋で椅子の背にもたれ、天井を仰ぐと乾いた笑いをもらした。
「ははっ……他に思いつかない。何が天才軍師だ」
救いがあるとすれば、たとえ表面上丸く収めたとしても、紗也は一度気付いてしまった和成の想いを完全に否定したりはしないだろう。
今までのように無防備に甘えてくることは無くなるはずだ。
今週一杯で電算機操作の説明も終わる。
来月になれば技術局に行ったきりになる。
紗也に接触する機会は格段に減る。
それまで、あの真っ黒い感情を押さえ込んでおけばいい。
和成は俯いてため息をついた。
「……なんで、紗也様なんだよ……」
まんじりともしないまま、夜は更け朝が来た。