月下の誓約


「和成から聞きました」


 紗也は塔矢から顔を背けると、両手で頬を押さえて椅子に座り直した。


「私、和成にはいつも迷惑かけてるし、怒られてばっかりだから、どっちかっていうと嫌われてると思ってたの。あんな風に思ってたなんて……」

「どんな風に思ってるかは、本人の頭が冷え次第直接お聞き下さい」


 早々に話を切り上げて、そろばんを弾こうとした塔矢に紗也が言う。


「和成を呼んで」


 塔矢は手を止め、張り付いたような作り笑顔で紗也を見た。


「もう少し時間を置いてからの方がよいかと存じます。後ほど私が様子を見てまいりましょう」


 紗也は塔矢をまっすぐ見据えながら、毅然として言い放つ。


「今すぐに呼んで」


 塔矢は少しの間、紗也を見つめ返す。
 そして立ち上がり、頭を下げた。


「御意、承りました」

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