月下の誓約


「会わせる顔がありません」
「その、かわいい顔があるじゃないか」
「茶化さないでください」


 塔矢はひとつ嘆息する。


「自分の事ばかり考えるな。少しは周りを見ろ。相手のことも思いやれ。紗也様はおまえと向き合うおつもりだ。おまえの話をお聞きになりたいとおっしゃってるんだ」


 突然、和成が弾かれたように顔を上げた。
 目を見開いて宙の一点を凝視しながらつぶやく。


「わかった。人間になる方法……」


 塔矢は訝しげに和成を見つめた。


「おまえ、人間じゃなかったのか?」


 和成の瞳に光が戻った。
 塔矢を見据えて不敵の笑みを浮かべる。


「上策を思いつきました。紗也様にお目通り願います」


 塔矢は満足げに目を細めると口の端を上げた。


「よし、さっさと支度しろ」

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