月下の誓約

 13.幸せな魔法



 執務室の戸が開き、和成が出てきた。

 入口横の壁にもたれたまま不機嫌そうに横目で見る塔矢に和成が告げる。


「ふられました」


 塔矢は少しの間和成を見つめた後、フッと安堵の笑みをもらし、続いて声をあげて笑った。


「ひどいな。そんなに笑わなくてもいいじゃないですか」
「安心したら、つい……な。おまえを”殿”とは呼びたくないからな」
「え?」


 和成が不思議そうに塔矢を見つめる。


「紗也様に受け入れられるってことは、そういうことだろう。考えてなかったのか?」

「そんな大それた事、考えてもみませんでした」

「紗也様に惚れるのは、それほど恐れ多いという事だ。だから、惚れるなと言ったんだ」

「今更、無理ですよ。でも、紗也様に想いを返して貰おうとは思ってませんから」

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