月下の誓約
それは言っているようなものである。
和成は瞬時にいつもの不機嫌顔に戻った。
「そうですか。ではおっしゃらなくて結構です。だいたい想像はつきますので」
そして明日早朝に出立する事を伝えて挨拶を終えると、和成は謁見室を後にした。
和成と入れ替わるように女官が部屋に戻ってきた。
紗也は女官を伴って寝室に移動する。
着替えを手伝ってもらいながら、先ほど垣間見た、奇跡のような和成の笑顔を思い出す。
無意識に紗也の頬はニマニマと緩んだ。
女官たちは誰も見た事がないという和成の笑顔を、紗也は何度か見た事がある。
その笑顔は無垢な少年のようで、本当にかわいいのだ。
女官たちは普段の笑わない和成をかわいいと言っているが、自分だけはもっと本当にかわいい和成を知っている。
それが紗也の密かな自慢だった。
そしてその秘密は、自分だけの宝物のような気がして、誰にも内緒にしていた。