月下の誓約


「寂しいんだろうな。毎日怒鳴られてたおまえの姿さえ見る事がなくなって。とはいえ、色々と問題ではあるな。一応言ってはみるが、それでもダメなら女官長に言うぞと脅してみるのが一番効くかもな」


 女官長は世話係を取り仕切り、紗也の躾や教育を担当している。
 和成の他に、紗也に対して厳しい小言を言うのは彼女だけだ。

 そして和成の小言はケロリとして受け流す紗也も、どういうわけか女官長の小言は苦手としている。


「それが一番かもしれませんね」


 和成が大きくため息をついた時、部屋の戸が開いて昼食を終えた紗也がいつもより早く帰ってきた。
 和成の姿を見つけると笑顔で駆け寄る。


「和成、来てたの? 言ってくれればもっと早く帰ってきたのに」
「塔矢殿に少し用事があっただけですから」


 和成は椅子から立ち上がると、チラリと塔矢に視線を送った。
 それを受けて塔矢は小さく頷き、和成が座っていた椅子を指差す。


「紗也様。そこにお座り下さい」

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