月下の誓約
謁見室を辞した和成は、自室を目指して長い廊下を引き返す。
渡り廊下の真ん中で立ち止まり、廊下の下にある堀の水面に目を移した。
水面に映る月がゆらゆらと揺らめきながらキラキラと光を反射させている。
廊下の灯りで真下には自分の姿も映っていた。
実年齢より十は若く見える、紗也が言いかけてやめた”かわいい”容姿を眺めながら、和成はあごを撫でてつぶやいた。
「ヒゲでものばしてみようかな」
しかし以前、戦が長引いて伸び放題になった時、戦後も面倒でそのままにしておいたら、老若男女を問わず似合わないと不評を買い、塔矢に至っては顔を合わせるたびに何も言わず含み笑いをするので、すっかりイヤになって剃ってしまった、という苦い経験を思い出した。
和成はガックリ肩を落として大きくため息をつく。
「もう寝よ……」
そしてそのまま廊下を渡りきって自室に引っ込んだ。