月下の誓約


 昼間塔矢に注意されたばかりで、さすがに今夜は来ていないだろうとすっかり安心しきっていた和成は、部屋の戸を開けて廊下に一歩踏み出した途端、石段に紗也の姿を見て心底驚いた。

 驚いて後ずさりした拍子に入口の敷居に足を取られて転びそうになる。
 それと同時に、思い切り戸を叩いて派手な音を立てた。


「何騒いでんの?」


 紗也がうるさそうに和成を振り返る。

 和成は気を取り直して問い返した。


「紗也様こそ、昼間塔矢殿に注意されたではないですか。どうしてまた、いらしたんですか?」


 紗也は気にもとめず笑顔で和成を手招きする。


「いいから、こっち来て。少し話そう」


 和成は一息嘆息し、諦めて紗也の隣に座った。


「……また、女官たちを眠らせていらしたんですか?」

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