月下の誓約


 和成は不機嫌さそのままに、執務室の扉を勢いよく開け放ち怒鳴り込んだ。


「紗也様――っ!」


 室内正面奥には、大きな執務机に向かう紗也と、その斜め前の机でそろばんを弾いている君主補佐官の坂内塔矢(さかうちとうや)がいた。

 紗也は和成に一瞥をくれただけで、再び机の上の書類に目を落とした。

 塔矢はそろばんを弾いていた手を止め、物言いたげに和成を見つめる。
 いつものことなので、二人とも特に気にした様子は見せない。

 和成は塔矢の前を素通りし、紗也の机に両手をついて、頭の上から怒鳴りつけた。


「出陣なさるとは、どういう事ですか! 私は承服いたしかねます」


 紗也の暴挙はこれだ。

 和成の知る限りでは、一歩も城から出たことがないくせに、明日からの戦に突然出陣すると言い出したのだ。

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