月下の誓約


 笑顔で手を振って紗也は駆け出して行った。
 和成は大きくため息をつく。
 その横で紗也を見送りながら右近もホッと息をついた。


「びっくりしたぁ。俺、紗也様を間近で見たの初めてだよ。気さくな方だな」
「まぁ、それがいいところでもあり悪いところでもあるけどな」


 淡々と答える和成の肩に、右近は腕を回す。


「いいなぁ、おまえ。あんなかわいい方の側仕えだなんて。俺のとこなんかヤローばっかりでむさくるしいのなんの」


 右近の常駐している、今回本陣となった北方砦は国境の山の中にある。
 まわりに民家も何もないので、砦内の雑務は全て兵士が行っていた。
 貧乏な杉森国は人を雇う余裕などないのだ。
 女性兵士自体少ないので、長期駐留を余儀なくされる砦には、男ばかりが赴任していた。

 それは和成も知っているが、紗也の側仕えをうらやましがられるのは納得できない。

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