月下の誓約
第三話 寒椿
1.雪祭りへの誘い
杉森国の冬は深い雪に閉ざされる。
秋津島の内陸部に位置するため、他国よりも標高が高く、周辺の山岳地帯にぶつかった冷たい空気が雪を降らせるのだ。
雪に閉ざされる冬の間、杉森国は戦もなく、一年の内最も平和でのどかな時期となる。
雪道の歩き方もよく知らない平野部に住む他国軍にしてみれば、雪深い杉森国に攻め込むのは自殺行為に等しい。
そのため、冬の間の停戦は暗黙の了解事項となっていた。
冬の最も雪深い時期に、杉森国では国の公式行事として雪祭りが行われる。
雪のために閉じこもりがちになる国民を活気づけるために国を挙げてのお祭り騒ぎをしようというのだ。
幸いこの時期、戦がないので戦時下にあっても途絶えることなく毎年執り行われてきた。
城下中央を貫く大通りを中心に、有り余る雪を使って作られた雪像が立ち並び、夜ともなれば色とりどりの灯りで照らし出され幻想的な雰囲気を醸し出す。
会場周辺の商店や露店では、猛吹雪にでも見舞われない限り、期間中夜遅くまで暖かい食べ物や飲み物が売られ、国中が昼夜を問わずお祭り騒ぎに沸き返る。
それが一週間続くのだ。
冬の停戦期間中は軍人たちも国境の見回りくらいしかすることがないので、砦の警備部隊以外は道路の除雪や民家の屋根の雪下ろし等、奉仕活動の他、雪祭りの会場設営や雪像作りの手伝いなどで駆り出される。
元々、雪祭りの立案者が過去の君主だったので、祭りの費用の大半は君主の私財でまかなう事になっていた。