月下の誓約


 和成の世迷い言など、塔矢は相手にしない。


「わかってますけど……」


 納得は出来ないものの、この疑似父娘(ぎじおやこ)に逆らっても勝ち目はない。
仕方なく和成は口をつぐむ。


「じゃ、そういう事でよろしく」


 紗也は和成に向かって軽く手を挙げる。
 その脳天気な笑顔を見ていると、完敗を認めるのがシャクな気がして少し抵抗してみたくなった。


「紗也様。立場を利用して先手を打つというのは、少し意地悪ですよね」


 途端に紗也は不機嫌を露わにする。


「だって、女官たちが和成の心を揺さぶる手紙を鋭意制作中って言ってたし、慎平をどこで捕まえるか相談までしてたのよ。万が一揺さぶられちゃったら、私が雪祭りに行けなくなるじゃない」

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