月下の誓約
更にもう一枚脱ぎながら紗也は尋ねる。
「和成は? どうして今まで結婚しなかったの?」
「別にまだ結婚を焦る年でもありませんし。今までは結婚よりも他の事に興味が向いていただけです」
「じゃあ、今は?」
和成はほんの少しの間、黙って紗也を見つめた。
紗也は何を思ってそんな事を聞くのだろう。
多分、話の流れでふと聞いてみたくなっただけで何も思ってはいないのだろうけど。
紗也が君主でなければ、きっと想いに気付いた時点で数年後の結婚を意識していたかもしれない。
だが、現実は考えるだけ無駄な事だ。
「……結婚して家族が出来ると、守るべきものが増えます。私はあなたをお守りする事で手一杯なので、守るべきものを増やす事はできません」
「私の護衛じゃなかったら結婚するの?」
「現時点では考えられません。理由はおわかりですよね?」
きっと今後一生考えられない。
他の女との結婚など。
たとえ護衛の任を解かれても。
紗也が誰かと結婚しても。
紗也は答えずチラリと和成を見た後、もう一枚上着を脱いだ。
「こんなもんでいい?」
上着を三枚脱ぎ捨てて軽快になった紗也は、腰に手を当てて和成を見る。
「ええ。充分です」
二人は執務室を出て、雪像作りの現場へと向かった。