月下の誓約
「全身筋肉痛で痛くて動けないんです。一番若いからって一番キツイ仕事を割り当てられて、手足がガクガクです。昨日なんか手に力が入らなくて、屋根の上で転びました。そしたら雪ごと落ちて、下にいた先輩共々あやうく生き埋めになるところでした。私は戦で命を落とすよりも雪下ろしで命を落とす確率の方が高いような気がします」
慎平がため息をついて項垂れると、和成はおもしろそうにその顔を覗き込む。
「一番若くなくても当分雪下ろしからは逃れられないぞ。俺なんか未だに三日に一度は回ってくるしな。塔矢殿の年になると回ってこなくなるらしいけど」
「塔矢殿って何歳でしたっけ?」
「三十五」
「十年以上先の話じゃないですか!」
慎平はわめいた後、再び背中を丸めて項垂れた。
「まぁ、頑張れ。今度から夏の間に鍛えとけよ」
和成はそう言って笑いながら慎平の背中を叩くと、紗也と共に正門を出て行った。