月下の誓約


 和成がそう言うと、紗也は不満げな声を上げた。


「えーっ? じゃあ、私も見回りに行く」

「それは、ご容赦願います。浜崎との国境付近は雪深い山の中ですし、道沿いには崖などもあって大変危険です。道も細く、除雪も充分とは言えませんので、歩くだけでも体力を消耗するような場所です。どうかご理解下さい」


 立ち止まって頭を下げる和成をチラリと見下ろして、紗也はすねたように顔を背ける。


「せっかく久しぶりに和成と長い間一緒にいられると思ったのに。いっぱい話をするのも久しぶりなのに」

「お話でしたら、夕食後にでも、お部屋にお伺いしましょうか?」


 和成が笑って問いかけると、紗也は慌てて断った。


「ダメーッ! 絶対来ちゃダメ! 女官たちが心揺さぶる手紙を渡したらイヤだもん!」

「だから、揺さぶられませんって」


 ため息をついて肩を落とす和成の側から、紗也は急いで走り去る。


「絶対来ちゃダメだからね。おやすみ!」


 最後に駄目押しして、ひとりで城の中に駆け込んでいった。

 紗也を見送った後、和成はふと空を見上げる。
 昼間は穏やかに晴れていた空が再び厚い雲に覆われている。
 夕闇の迫る薄暗い空から雪がチラチラと舞い始めた。

 今宵も月は望めそうにない。

 和成は空から視線を戻し、城へ向かって歩き始めた。

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