月下の誓約
「普通花って、たとえば桜とか、散る時花びらが一枚ずつ落ちるじゃないですか。
でも椿は花を丸ごと落とすんです。その様がまるで首を切り落とされたみたいに見えるから”首切り花”って言うんですよ。明日は我が身を思わせるので軍人には嫌われてるんです」
「ふーん。じゃあ、私の部屋に飾るだけにする」
そう言って紗也は道を外れ、崖の縁に生えた椿の花に手を伸ばす。
「危険です、紗也様! 道から逸れないで下さい!」
和成が慌てて連れ戻そうと手を伸ばした時、一歩踏み出した紗也の足下の雪が崖下へと崩れ落ちた。
悲鳴と共に紗也が崖下へと姿を消し、伸ばした和成の手が空を切る。
「紗也様!」
和成は叫んで崖下を覗き込んだ。
二人の声に驚いて振り向いた里志の目に映ったのは、崖から飛び降りる和成の姿だった。
「おい! 和成!」
和成が飛び降りた崖っぷちに走り寄り、里志は膝をついて下を覗き込んだ。