月下の誓約
「言わないけど。私は君主の器じゃないもの。和成みたいに頭よくないし、政治なんてちっともわかんない。具体的に何をすればいいのか見当も付かないし。父さまが急に死んで他に誰もいなかったから、たまたまなっちゃった君主だもの」
和成は紗也が愚痴をこぼすのを初めて聞いた。
普段は叱られても次の瞬間には忘れ、わがまま放題の脳天気ぶりから悩みなどないように思っていた。
考えてみれば、まだ親の恋しい年に天涯孤独となり、いきなり国を背負わされたのだ。悩まない方がどうかしている。
本音の見えない大人たちにかしずかれ、自由に外を出歩く事も許されない紗也は、孤独と重責に堪えながら君主の立場を捨てられない以上、それを誰にも言えずにいただけなのだろう。
城内で唯一、自分と同じ目線でケンカをする和成になついたのも、今なら理解できる気がした。
それはそれで複雑な気分ではあるが。
「お伺いしますが、誰かあなたに縁談を持ちかけた者はおりますか?」
「いない」
「さっさと結婚すればいいと思っているなら、縁談があるはずでしょう? ないという事は誰もそんな事を思っていないという事です」