月下の誓約
紗也は何も答えず、和成の背中に顔を埋めてしがみつく。
そして小さな声でつぶやいた。
「和成、お願い。ずっとそばにいて。私を見捨てないで」
甘くて残酷な呪縛に、和成は目を細めて静かに頷く。
「あなたが解任なさらない限り、ずっとお側にお仕えいたします。命つきるまで」
しばらく黙って雪の上を歩き続けると、目の前に天を突くほど大きな楠が姿を現した。
根元には大人が座って余裕で入れるくらい大きなうろが、ぽっかりと口を開けている。
和成が肩越しに声をかけた。
「紗也様、ご覧下さい。あの木が見えたら砦はもうすぐです」
紗也が顔を上げ、木を見上げながらその横を通り過ぎようとした時、前方から十数名の浜崎兵がこちらに向かってくるのが見えた。
相手もこちらに気付いたらしく、互いに言葉を交わした後、小走りに近付いて来る。
和成が楠のうろを背にするように、その場を移動すると、浜崎兵はそれを取り囲んで立ちはだかった。
最悪の事態に陥ったようだ。
※三間=六メートル足らず