月下の誓約


 腕を引かれた兵は若者を振りほどき、苛々した様子で彼を怒鳴る。


「バカ言え! 領地を侵しているのはあいつの方だ。なぜ我らが退かねばならぬ?!」

「だっておかしいですよ。女連れで、目立つように刀を持って敵地の偵察なんてありえません。あの人の言うように、本当に崖から落ちただけだと思います」

「たとえそうだとしても、天才と言われている杉森の軍師を目の前にして、みすみす見逃したとあっては我らの沽券に関わる。抵抗するなら斬るまでだ。おまえも軍人なら腹を括れ!」


 若者は諦めて刀を抜いた。

 期待してはいなかったものの、やはり誰も退いてはくれないようだ。

 和成が後方のやりとりに少し気を取られているのに感付いて、前方の三人が斬りかかってきた。
 瞬時に対応してまずは三人。
 残り十一人。

 続いて右手から槍兵が一人、少し遅れて正面から剣兵が一人襲いかかった。

 突き出された槍の切っ先を躱し、柄の中心あたりをたたき斬る。
 体勢を崩して足元がフラついた槍兵の背中に刀を突き刺すと、振り向きざまに目の前に迫っていた剣兵を切り捨てた。
 残り九人。

< 461 / 623 >

この作品をシェア

pagetop