月下の誓約


 次第に和成の息が上がってきた。
 一人斬るごとに血糊で切れ味が鈍り、刀が重くなってくる。
 それに伴い体力も徐々に削られていく。

 休む間もなく右手から三人が斬りかかってきた。
 二人はすぐに斬ったものの、残る一人に対応が遅れ、斬るのが間に合わず刀を受け止める。

 この一瞬の遅れを左手にいた槍兵は見逃していなかった。

 和成が受けた刀を押し返し、よろけた相手を斬った直後、左手から槍が突き出された。

 気付いて身をひねった時には、すでにその切っ先が和成の左脇腹を深く抉っていた。

 思わず呻いて足元がフラつく。

 身体から引き抜かれる槍が更なる激痛を与え、再び声がもれた。

 槍の抜けた傷口から一気に血があふれ出す。
 それが着物を赤く染め、ボタボタと滴り落ちて雪の上に血溜まりを作った。

 遠ざかる槍の柄を、和成は咄嗟に左手で掴む。
 槍兵が驚愕の表情で和成を見た。
 視線が交わり、槍兵は怯えたように槍を取り戻そうと必死で引く。

 和成は足を踏ん張ると、渾身の力を込めて槍を引き寄せた。
 そして柄を掴んだまま、つんのめった兵の首筋を右手の刀で切り裂く。

 吹き出した返り血が、全身を赤く染めた。
 いつものように返り血を躱す余力は残っていない。

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