月下の誓約





「生きる事を諦めるな」




 初陣の時に聞いた塔矢の言葉が聞こえた。


(諦めてませんけど、身体が言う事を聞かないんです)


 狭くなってきた視界の端で、斬りかかってくる兵の姿を捉える。
 とっさに直撃は避けたものの、右上腕部に激痛が走った。

 最早、ほとんど見えない目で気配だけを頼りに兵を斬る。
 残りは何人?
 数えるどころか姿もろくに見えない。

 一面の銀世界のように白濁した視界の真ん中で、真っ赤な椿がゆっくりと花を落とす様が見えた。


(おわりか……)


 椿の花に重なるように、笑顔の紗也が見える。
< 464 / 623 >

この作品をシェア

pagetop