月下の誓約
6.最凶軍師
和成がいつまで待っても砦にやって来ないので、塔矢は里志の他に二人の隊員を伴って、浜崎との国境を越えた。
里志の案内で崖沿いの道を、和成と紗也が転落した地点を目指して進む。
しばらくして道端の雪の上に力なく座っている浜崎兵の若者を見つけた。
近付く塔矢を見て、若者は怯えたような表情をする。
「さ、坂内塔矢!」
「いかにも。そちらの詰め所に誰もいなかったので勝手に入らせてもらったぞ」
平然と答える塔矢に、若者は動揺して刀に手をかけながら、立ち上がろうした。
塔矢はその手に自分の手を添えて、若者の前にしゃがむ。
「抜くな。やり合うつもりはない。俺に勝てる自信があるなら別だが」
塔矢がそう言って口の端を上げると、若者は力が抜けたように刀から手を離して、肩を落とした。