月下の誓約
紗也が側まで来ると、和成は右近を片手で追い払った。
「ほら、おまえもさっさと仕事しろ。仕事」
「しょうがない。また連絡する」
諦めたようにそう言って、右近は紗也に頭を下げ、その場を立ち去った。
和成と共に歩きながら紗也が尋ねた。
「ずっと一緒にいたの? 仲がいいのね」
「まぁ、滅多に会えない数少ない同期ですからね」
少しして紗也が思い出したようにクスリと笑った。
和成は不思議そうに紗也を窺う。
紗也は嬉しそうに笑顔を向けた。
「和成のタメ口、初めて聞いちゃった」
素の自分を見られたのがなんだか照れくさくて、和成はプイと横を向いた。
「私も友人にはタメ口ですよ」
少しうろたえたようにボソリとつぶやく和成を見て、紗也の心は高揚する。
これもきっと女官たちの知らない和成なんだ。
そう思うと、またひとつ秘密の宝物が増えたような気がして嬉しくなった。