月下の誓約
それを聞いて和成は少し微笑んだ。
「あぁ、彼は生き残ったんだ。彼だけ、戦わずに退こうって言ったんです。人を斬るのが怖かっただけかもしれませんけど。ちょっと慎平に似てるなって思いました」
塔矢は顔をしかめる。
「敵の後ろにあるものを見るなと言っただろう」
「ええ。初めて見ました。それで、この体たらくです」
塔矢は意外そうに、少し目を見張ると黙って和成を見つめた。
和成はそれを察して少し笑う。
「意外ですか? 私は自分を見失う程の衝撃を受けた初陣の時でさえ、敵兵の後ろにあるものを見た事はありません。命を奪うという行為と血の匂いが嫌いなだけで、命を奪われる相手に対して同情も興味も抱いた事はないんです。だから人形だって言われるんですよね」