月下の誓約
塔矢は腕を組んで椅子の背にもたれた。
「人形でなくなったから、相手に興味を示してしまったわけか」
「人の心を手に入れるというのは、軍人にとって諸刃の剣なんですね。塔矢殿はどうなんですか?」
「俺か? 俺の愛情は絶対量が決まってるんだ。普段はその大半を家族と紗也様に与え、余った分を他のものに使っている。だが戦場では、残りは全部おまえら前線の兵に使ってるからな。敵兵にまで与える分は微塵もない。俺が敵兵に容赦ないのはそう言う理由だ」
「敵兵に鬼のように言われてますよね」
和成が笑って指摘すると、塔矢もニヤリと笑って和成を指差す。
「おまえの戦鬼伝説も七年ぶりに復活したぞ。あれ以来、浜崎の兵を国境付近で見なくなったらしい」
「その伝説、あまりうれしくありません」
和成は顔をしかめた。