月下の誓約

 5.開戦



 中央司令所の中は活気に満ちていた。
 それほど広くもない空間に多くの人間がひしめいているからかもしれない。

 三列に並んだ机には電算機の端末が据え置かれ、その前に座った兵士たちが互いに言葉を交わしながら情報の入力を行っている。

 入り口正面の壁際には黒い金網の箱に入った大きな電算機が鎮座している。
 戦略の要となる戦略主機だ。
 そしてその横の机には中央司令所を統括する情報処理部隊長がいた。

 情報処理部隊は二つの班に分かれている。
 ひとつは戦場に散って敵の情報を収集する斥候班。
 もうひとつは中央司令所で斥候の情報を集約し、戦場にいる実働部隊に提供する情報処理班だ。

 斥候班は戦闘には参加しないものの、戦場にいるので刀を携行し着物の下には鎖帷子を着用している。
 だが中央司令所にいる兵士たちは皆軽装だった。

 袂のない着物に股引をはいて膝下には脚絆を巻いた軍装束に、防具は鉢金と胸当てだけである。
 刀や槍などの武器は壁に備えられた置き場に並べられていて、携行しているものは護衛官の和成だけだ。

 もっとも、本陣の中央にある司令所の兵士たちが、武器を手に戦う事があるとすれば、それは本陣陥落寸前の劣勢に他ならない。
 杉森軍はこれまで、そんな状況に陥った事は一度もなかった。

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