月下の誓約


 和成はうんざりしたようにため息をついた。


「その設定、やめましょうよ。ムリですって」
「いいじゃない。誰も聞いてないんだからタメ口きいたって」
「誰も聞いてないなら、タメ口である必要もないじゃないですか」
「も~ぉ! ああ言えば、こう言う!」


 紗也は苛々したようにひとつ足を踏みならす。
 けれど、すぐにいたずらっぽく笑って和成を見上げた。


「ねぇ。一回だけ”紗也”って呼んでみて。そしたら設定なしでいい」
「できません。そんなこと」


 和成は思いきりうろたえる。
 少し頬をふくらませて、紗也は更に食い下がった。


「だって、父さまがいなくなってから誰も呼んでくれないんだもの。お願い。一回だけ」

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