月下の誓約
「どうかなさいましたか?」
紗也はしきりに自分の身体を探ったり、周りをキョロキョロ見回しながら答える。
「手袋が片方なくなっちゃった」
「この人混みで探すのは無理ですね。少し大きいですが、私のをどうぞ」
和成が自分の手袋を外すと、素手になった左手を紗也の冷たい右手が握った。
「こっちの方があったかい。はぐれないようにつかまえてて」
笑顔で見上げる紗也に、和成も笑顔で答える。
「かしこまりました」
手をつないで通りの方へ移動した時、通りを挟んで人混みの向こうから和成の名を呼ぶ者がいた。
咄嗟に握った手を後ろに隠して、声の主を捜す。