月下の誓約


「どうかなさいましたか?」


 紗也はしきりに自分の身体を探ったり、周りをキョロキョロ見回しながら答える。


「手袋が片方なくなっちゃった」
「この人混みで探すのは無理ですね。少し大きいですが、私のをどうぞ」


 和成が自分の手袋を外すと、素手になった左手を紗也の冷たい右手が握った。


「こっちの方があったかい。はぐれないようにつかまえてて」


 笑顔で見上げる紗也に、和成も笑顔で答える。


「かしこまりました」


 手をつないで通りの方へ移動した時、通りを挟んで人混みの向こうから和成の名を呼ぶ者がいた。
 咄嗟に握った手を後ろに隠して、声の主を捜す。

< 492 / 623 >

この作品をシェア

pagetop