月下の誓約
雪解け水が山野を潤し、残雪の隙間から野草が芽吹く頃になると、杉森国は平和な冬から一気に緊張の春を迎える。
冬の間に力を温存していた近隣の国々が、一斉に不穏な動きを見せ始めるからだ。
雪の降らない国同士の小競り合いは冬の間にもあるが、どこの国も当面の標的は目の上のたんこぶ杉森国である。
おまけに今年はさらに注目を浴びていた。
浜崎国境での惨劇がすでに尾ヒレを伴って秋津全土に広まっていたからだ。
杉森国が負け戦知らずなのは、鬼神の申し子である和成を軍師に頂いたため、鬼神の加護を得ているからだという。
そのため、杉森を制すものが秋津を制すとまで言われるようになってしまった。
おかげで和成はますます丸腰で外を出歩けなくなり、以前にも増して城に引きこもるようになった。