月下の誓約
『なんだよ。用事でもあるのか?』
「いや、そうじゃないけど……。まあ、おまえなら大丈夫か。丸腰で来るなよ」
それを聞いて右近は、驚いたように頭のてっぺんから声を出す。
『はぁ?! なんで?!』
和成は読みかけの本に栞を挟んで閉じると、椅子の背にもたれた。
「浜崎国境での事件以来、ヤバイんだ。何度か城の用事で城下に出た事あるんだけど、時々視線や殺気を感じる。妙な噂が秋津全土に流れてるし。俺と一緒にいるとマジで死ぬ目に遭うかもしれないからな。自分の身は自分で守ってくれ」
『やれやれ。おまえと会うのは命がけかよ。じゃ、六時にな』
おおげさなため息と共に、右近の電話は切れた。
時計に目をやると、時刻はちょうど午後二時。
和成は電話を机の上に置き、刀を持って道場へと向かった。