月下の誓約


 あの人混みと薄明かりの中で、まさか知人に見られているとは思っても見なかった。
 言い訳できるわけもないのに、いかにして取り繕うかに考えを巡らせ絶句していると、横から右近がニヤニヤしながら顔を覗き込んだ。


「へぇ〜ぇ」


 和成は黙ったまま右近を睨む。


「じゃあ、ごゆっくりどうぞ」


 そう言って店主は、火種を残したまま店の奥へと引っ込んだ。

 席に付いた途端、右近は笑いながら頬杖をついて問いかける。


「で? 誰と手をつないでたって?」
「うるせーよ。わかってるくせに聞くな」


 吐き捨てるように言って、和成は右近から顔を背けた。

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