月下の誓約
右近は目を細くして、和成を哀れむように見つめながらため息をつく。
「おまえの気持ちを知っていながら、そういう事するなんて小悪魔だなぁ」
和成は突然思い出したように顔を上げた。
「あ、そういえば言ってなかったな」
事情を話そうとした時、注文した料理と酒がやってきた。
ひとまず話を中断して乾杯する。
そして和成は紗也に想いを告げられた事を右近に話した。
「なぁーんだ。眠り姫がようやく目覚めたのか。よかったじゃないか」
右近が自分の事のように嬉しそうに笑うと、対照的に和成は浮かない表情になる。
「気持ち的には嬉しいけど手放しで喜べない。あの方は普通の女の子じゃないんだ。あの方の想いに答えるって事は、後ろにあるもの全てを共に背負うという事だ。俺にはその器量がないように思う。現に先代から仕えている臣下の中で一番俺を理解している塔矢殿が俺の事を”殿”と呼びたくないって言ったんだ」