月下の誓約


 右近は酒を飲みながら横目で和成を見る。


「まぁ、呼びたくないだろうな。部下を”殿”とは」

「塔矢殿がそういう私情だけで言ってるとは思えない。塔矢殿でさえ認めていないのに、俺のような若輩者を他の重臣たちが認めるわけないだろ」

「じゃあ、どうすんだよ。今度はおまえがあの方をふるのか?」

「考え中」


 話を打ち切って和成は料理に箸を伸ばした。
 しばらく二人とも黙ってそれぞれ何かを考えながら黙々と飲食を続ける。
 少しして酒が底をついたので和成が追加を注文していると、右近が話しかけてきた。


「いっそ塔矢殿に相談してみたらどうだ?」


 注文を終えた和成は、右近に向き直る。


「それダメ。塔矢殿に言わないでくれって頼まれてるんだ。自分が言うからって」
「で? 話したような気配はないのか?」
「わかんね。ずっと技術局にいたから、ほとんどお会いしてないし」

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