月下の誓約
右近はひとつため息をつき、黙って和成を見た。
和成は少し笑みを浮かべて、視線を落としながら言う。
「……忙しさを理由に逃げてるだけだよな。今までのままの方が俺は気楽なんだ。元々、あの方に想いを返してもらおうとは思ってなかったし、ずっとお側にお仕えして、時々お話ができるならそれでいいと思ってた」
「おまえ、もしかして一生結婚しないつもりだったのか?」
驚いて問い返す右近に、和成は平然と答える。
「あぁ。どうしても他に目が向かないし。だからあの方から”ずっとそばにいて”って言われた時はすっげー嬉しかったな。ずっとお側にお仕えする事を許されたわけだから」
「ちょっと待て」
右近は再び手を挙げて和成を制した。
「それって求婚じゃないのか?」
「違うだろ。あの方は感情も行動も言葉もまっすぐなんだ。裏はない。求婚だったら”結婚して”って、おっしゃるはずだ」
「そうなのか?」
右近は疑わしげに和成を横目で見る。
そして、ふと思いついたように問いかけた。