月下の誓約


「なぁ。ぶっちゃけ、さらって逃げようとか思った事ないか?」


 和成は天井を見上げて少し考える。


「実際にはないなぁ。でもあの時、塔矢殿の言う通りに、ごまかして想いを告げないままだったら、考えるだけじゃなくて本当にさらって逃げてたかもな。あの頃は俺、余裕なかったし。今は絶対考えられない。そんな事したらあの方を泣かせる事になるし、俺自身もその後ずっと後悔するだろうし。なにより、泣くのはあの方だけじゃ済まない。杉森の国中の人が泣く事になる。そんな大勢の不幸の上にある幸せなんて、俺はいらない」

「ふーん」


 右近は意味ありげにニヤニヤ笑いながら盃を傾けた。


「何だよ」


 和成が少しムッとして問いかける。


「いや、すっかり人間っぽくなったなと思って」
「だから、俺は元々人間だっての」

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