月下の誓約
3.ためらい
無事城にたどり着く頃にはすっかり酔いも醒めていた。
正門をくぐり前庭に出ると、和成は立ち止まって空を見上げる。
日に日に暖かくなってきた夜風がふわりと髪をなでていった。
空には春霞で輪郭のぼやけた月が、満月に向けてふくらみ始めている。
中庭の桜もつぼみがふくらみ始めている。
満月の時に桜が満開になったら、花見酒と月見酒が同時に味わえるなと少し楽しみに思いつつ和成はクスリと笑った。
そして城に向かって再び歩き始める。
足元を見つめて歩きながら考えた。
塔矢に「おまえを”殿”とは呼びたくない」といわれた事。
紗也の想いが自分に向く事などありえないと思っていたあの頃は、こんなに重い事だとは知らなかった。
この重みに紗也はひとりで耐えていたのだ。
君主としての自覚が足りないと、紗也に毎日怒鳴っていた自分の方こそ何もわかってはいなかった。
もう一度塔矢に聞いてみたい。
今も自分は”殿”と呼ぶに値しない人間なのか。