月下の誓約


「言われてみれば、あなたに説教されるのは初めてのような気がします」


 紗也は笑顔で和成を見上げると、そのまま胸にすがりついた。


「和成が無事に帰ってきてよかった」


 鼓動の高鳴りと共に紗也を抱きしめたい衝動にかられ、自然に腕が持ち上がる。
 ——が、同時に後ろめたさもこみ上げてきて動きが止まる。

 紗也の想いに対する結論を見いだせないまま、中途半端な気持ちのままで感情に流される事がためらわれた。

 持ち上げた両手をそのまま紗也の肩に添えて、ゆっくりと身体を突き放す。

 紗也が不思議そうな顔をして和成を見上げた。


「……ぎゅって、してくれないの?」


 和成は紗也を見つめて苦笑する。

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