月下の誓約
「いたしかねます」
「塔矢に殴られるから?」
和成はそれには答えず、問い返した。
二人きりのこの機会を逃せば、次にはいつ尋ねる事ができるかわからない。
「塔矢殿にお話しになりましたか?」
「何を?」
「あなたのお気持ちです。ご自分でお話しになるとおっしゃったではないですか」
和成の言葉を聞いて、紗也は俯いた。
「ううん。まだ」
和成はひとつ嘆息して紗也から目を逸らす。
「私は塔矢殿を尊敬しております。塔矢殿は私のあなたに対する想いを知った後も、私がこうしてあなたのお側にお仕えする事を黙認しています。人手不足もあるとは思いますが、私を信頼してくれているのだと思います。たとえ、あなたの同意の上であっても、塔矢殿の知らない所で不用意にあなたに触れる事は信頼を裏切る事になります」