月下の誓約


 すでに一度裏切っている。
 あの時は二度と紗也を抱きしめることは叶わないだろうと思っていた。
 だから心に刻む思い出が欲しかったのだ。

 だがその事実は、その後塔矢の顔を見るたび、後ろめたさにチクリと胸を刺す。

 紗也が和成の腕を両手で掴んだ。
 和成は驚いて紗也を見つめる。


「和成は、塔矢が反対したら私の想いを無視するの? 嬉しいって言ったのはウソなの?」


 まっすぐに見つめられ、かえって目が逸らせなくなった。


「ウソではありません。ただ、塔矢殿にウソをつきたくないんです」


 紗也はひとつため息をつくと、和成の腕を離して目を逸らした。


「なんとなく和成がためらってる理由はわかる。私が”杉森紗也”だからだよね」

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