月下の誓約


「きのう右近に”すっかり人間っぽくなった”って言われたんですけど、塔矢殿から見てどうなんでしょう? 私はまだ中途半端ですか?」


 塔矢はニヤリと笑って腕を組む。


「完璧な人間なんていないだろう? そういう意味じゃ、俺もおまえもみんな生涯中途半端なんだ。だが、あの頃に比べてどうかという意味なら、おまえはかなり男前になったぞ」

「へ? 男前ですか?」


 尻の辺りがむず痒くなって思わず笑顔が引きつった。


「”かわいい”よりは進化したという事だ」


 塔矢はひとりで納得したように頷いているが、和成には中途半端よりも意味がわからない。

 和成はガックリと肩を落としてため息をつく。


「なんか塔矢殿と話していると、時々うまく煙に巻かれているような気がします」
「わからないからといって、また右近に聞くなよ」


 そう言うと塔矢は執務室へ引き上げていった。

< 530 / 623 >

この作品をシェア

pagetop